科学者を仕事にする
「大気化学」、英語で言うと、Atmospheric Chemistryという分野が私の専門です。
私が「大気化学」に出会ったのは、大学3年生の時。そして、修士課程2年の時に日本大気化学会の大気化学討論会に、博士課程1年の時にIGACという大気化学の国際学会に行きました。現在は、国立環境研究所に務める傍ら、IGACの共同代表と、日本大気化学会の会長をしています。私はもともと、科学者になるつもりは全くなかったのですが、大気化学との出会いは、私の人生を変えてしまいました。もちろん良い方に!そこで、学生の皆さんに、科学者を仕事することについて少しお話しします。
まず、科学者は、世界を相手に仕事をする、国際性にあふれた仕事です。そして、科学者は、サラリーマンというよりは、独立した専門家で、作家、画家、音楽家のようなもの、ともいえるでしょう。なので、成果を出すのは大変な面もあります。大変は大変ですが、とても刺激的で、例えば、サイエンスを議論する上ではノーベル賞受賞者も学生も平等です。成功したらすごく楽しいし、なるなら成功すべきです。「え〜、科学者として成功するなんて、頭がいい人しか無理では?」と思っていませんか?その答えは、YESでもありNOでもあります。確かに、簡単ではないかな、と思います。でもそのハードルは思うほど高くないとも思います。基本的に、理科系の教科(数学、物理、化学、生物、地学)は大切ですが、国語や英語や社会も非常に大切です。なぜなら、科学者は、文章を書いて、しゃべってなんぼですからね。コミュニケーション能力、英語力、そして雑談力も大事です。こうした、一見して文系らしい能力は、理系こそ必要なんです。そして、友達付き合いも良い仕事をするうえで大切ですし、最後は、気合と根性です!結局、他の職業と同じですね。
毎日、空を見ると思いますが、「その空気の中にある化学物質」を考えたことがありますか?私たちは空気の研究をしていて、空気の「質」、「中身」に誰よりもこだわっている人たちです。そして「大気化学」という学問の面白いのは、地学ではなく、物理と化学を駆使して考える総合的な学問だというところです。大気、水、土壌、そして宇宙など、地球の環境に興味を持っている人は、ぜひ科学者になることを考えてみてください。
最初に、「大気化学」との出会いと日本大気化学会やIGACのことを書きましたが、2018年9月末にIGACの「地球大気化学国際会議」を24年ぶりに日本で、私の出身地である高松市で主催しました。私たちにとってはオリンピックのような国際会議で、自分を育ててくれた故郷で開催できたのも、世界の各地を巡るフィールドワークが好きな大気化学の国際学会ならではの良さと思っています。
2020年12月 谷本浩志